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「太陽の子」 灰谷健次郎

灰谷健次郎
08 /15 2020
小学6年生の女の子ふうちゃんを通して語られる沖縄の痛み。美しい自然や音楽に囲まれた沖縄に生まれた人たちが、なぜ泣き、苦しみ、病んでいるのか。沖縄のことをもっと知らなければならないと、強く思いました。


 美しい沖縄の秘密

 沖縄のことをもっと知らなければならない、そんな気持ちを強くしました。この本は、ふうちゃんという小学6年生の女の子の言葉を通して、老若男女問わず、沖縄の痛みについて語りかけてくれることでしょう。
 時はおそらく昭和50年代。ふうちゃんの両親は沖縄の出身で、神戸で「てだのふあ・おきなわ亭」という沖縄料理のお店を営んでいます。お店には、沖縄出身の常連さんがたくさんやってきます。若いギッチョンチョンや片腕のないろくさん、ふうちゃんのおとうさんの親友のゴロちゃんらが。そしてふうちゃんはここで、ギッチョンチョンのお金を持ち逃げした、やはり沖縄出身のキヨシ少年と出会います。彼らはみな、沖縄への深い愛情と苦い思い出を抱えながら、故郷を遠く離れた神戸の地で生きているのです。
 ふうちゃんのおとうさんは心を病んでいます。ふうちゃんの両親はふうちゃんに、沖縄について楽しい思い出しか話したことはありませんでした。美しい自然の風景や音楽、懐かしい遊びのことだけを。しかしおとうさんの病気を機に、ふうちゃんはお店のお客さんやキヨシ少年を通して、沖縄のもうひとつの姿について知ろうとし始めるのです。私たち読者と共に。
 しかしそれを語ることは、語る人々にとってどれほどつらいことでしょう。忘れなければ生きていけない、絶対に語りたくない、そう思って口を閉ざすのは当然のことだと思います。生まれ変わって、もう一度生きていくためには。
 戦時中、日本で唯一地上戦を経験した沖縄。琉球王国というひとつの国家でありながら、日本となり、天皇陛下のために戦うことを強いられた沖縄。米軍基地の下に、生まれ育った家を沈めた沖縄。焼け野原となった故郷を離れ、仕事を求めて本土に移住した人々にとって、本土の都会は、時間の流れ方も人とのつながり方も、沖縄とはずいぶん違っていたことでしょう。そんな中で、孤独を深めていった人がどれだけいたことか。「てだのふあ・おきなわ亭」はそんな人々に、孤独を癒せる場所を提供してきました。しかしそれでも、ふうちゃんのお父さんは心を病んでしまいました。
 私の母が昔よく、朝鮮人に対する差別的な発言をしていたことを思い出しました。今では母も、それが間違った考えと言われていることを頭では理解しています。しかし私は、母の心の中にある差別意識が、完全に消えることはないだろうと思っています。その根はもう心の中に植え付けられてしまっているのです。キヨシ少年が働く料亭のおかみが思わず口にした「オキナワモンはあかん」という言葉に、私は私の母と似たような差別の根っこを感じました。そんな根っこが自分自身の中に、あるいは自分の知る誰かの中に存在しないか、もう一度考えてみなければならないと思いました。
 あまりに悲しい過去を背負った美しい沖縄。その沖縄が、美しい海にかこまれた世界有数の観光地として輝き続けることができますように。沖縄に住む人々や、沖縄にルーツを持つ人々が、そのことを心から喜び、誇りに思うことができますように。私は、沖縄の歴史についてもっともっと知りたいと思います。
 最後に、ふうちゃんはとってもいい子です。病気のお父さんに寄り添い、キヨシ少年のために一生懸命になり、お店のお客さんたちと仲良くできる6年生。そのことが、ふうちゃんのようないい子ではない読者の心を傷つけないか、ちょっと心配になりました。私が6年生のときにこの本を読んでいたら、いい子ではなかった私は、「こんないい子は嫌いだ」と本を放り出していたでしょう。沖縄のことなんて、どうでもいいと思ったでしょう。それはそれでいいと思います。この本が心に深い印象を残してくれる時期は、人それぞれなのです。

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千世

1970年生まれ。国文科出身。職業は介護支援専門員。家族は夫と猫の2人と1匹暮らしです。
文学を離れて働く今も、読書は一生のライフワークです。